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エリア特集2015-12-06

アートな街「北加賀屋」を探訪
~造船所跡地を核にクリエーターが集う街に~

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大阪市住之江区北加賀屋周辺エリアをアートで活性化させようという「北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ(KCV)構想」。名村造船所を核に、イベントだけではないさまざまな取り組みが行われており、この地に定住しながらクリエーティブな活動を行う人も出てきた。今回の特集では、そんなアートな街「北加賀屋」の今を大阪ベイ経済新聞の記者が探訪する。

■造船業の衰退

重厚長大産業の集積地として、日本の近代化を支えてきた木津川流域。北加賀屋エリアも昭和の初めごろから1960年代まで造船業でたいへん栄え、約2万人が働いていたという。

北加賀屋エリアの土地の半分を所有している千島土地株式会社は、1912(明治45)年の設立。土地の賃貸を事業の主軸として成長してきたが、1960年代後半からは建物の賃貸、さらには1990年代後半からは国内外の航空会社の航空機をリースするという事業に軸足を置き、安定した経営基盤を築いている。

同社では、木津川沿いの約4万2000平方メートルの土地を、1931(昭和6)年から名村造船所株式会社に賃貸していたが、船の大型化に伴いより大規模な造船所を佐賀に設け移転、1989(平成元)年にドックや工場、クレーンなどの建造物を残したまま返還された後、造船所跡地の活用を模索してきた。

■2004年、アートによる街おこしがスタート

2004年春、この造船所跡地の独特な景色に魅了された劇場プロデューサー・小原啓渡さんと、千島土地株式会社社長の芝川能一さんが出会い、同跡地を芸術・文化の発信地として活用する取り組みが始まった。

まずは同年秋、30年にわたり新しい芸術の提示・考察・検証・記録を行うアートプロジェクト「NAMURA ART MEETING ’04-‘34」がスタート。これまで2005年、2007年、2009年、2012年、2014年に美術展示、パフォーマンス、シンポジウムなどを実施している。

2005年には同跡地をアート複合スペース「クリエイティブセンター大阪(CCO)」としてオープンした。敷地内にライブスペース、総合事務所棟、野外スペースを設け、イベントや各種撮影、見本市など様々なイベントに対応する。この頃から同跡地がイベント拠点として活用され始め、イベントがある週末などには北加賀屋駅から同跡地に向かう人の群れが見られるようになったという。

クリエイティブセンター大阪(CCO)

千島土地株式会社ではその後、2008年に地域創生・社会貢献事業部を設立、続いて2011年には同社が全額出資する形で、より公益性の高い団体として「おおさか創造千島財団」を立ち上げ、アートによる街おこしを加速化させた。

同社により2009年に提唱された「北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ(KCV)構想」は、名村造船所跡地を中心に、地下鉄北加賀屋駅の北エリアに点在する空き物件や空き地を活用し、アーティストやクリエーターがアトリエ、オフィスなどを開設、運営し、「芸術・文化が集積する創造拠点」として再生することを目指した取り組みだ。

■徐々に広がる周辺施設、点から面へ

アーティストのための宿泊施設として、旅館を改装して2008年にオープンしたのは、「アーティスト・イン・レジデンス(AIR)大阪」(北加賀屋2)。ツアー公演の拠点や、滞在型制作時の拠点としての利用に向けての施設だったが、今年4月からは一般旅行者も宿泊できるようになったことから、外国人観光客の利用も多い。

AIR大阪

建築家や家具工房、3Dプリンタを有する「ファブラボ」などが入居するのは「コーポ北加賀屋」(北加賀屋5)。2009年に開設され、それぞれのオフィスのほか、キッチン、サロン、ライブラリー、ギャラリーなどの共有スペースを設け、さまざまなイベントも実施している施設だ。

コーポ北加賀屋

千島土地株式会社が保有する空き物件をアーティストに相場より安価な賃料で提供し、北加賀屋エリアへのアート関係者の流入を促進する「空家再生プロジェクト」が2009年にスタート。現在では「北加賀屋つくる不動産」というブランド名で物件紹介も行っている。同社物件に入居する「隠れ屋1632秘密基地」は、完全オーダーメードの手作り眼鏡屋。高松市と北加賀屋とを行き来する店主の内原弘文さんが作る眼鏡にはファンが多い。

隠れ屋1632秘密基地 2012年、空き地を生かしたコミュニティ活性化の取り組みとして、アートと農を組み合わせた「北加賀屋クリエイティブファーム事業(通称=みんなのうえん)」がスタート。野菜作りや農園の看板やイスなどの設備、イベントの企画などを参加者皆で協力して進めたり、農の勉強会や見学会、田植え体験などのイベントを実施している。第1農園(北加賀屋2=150平方メートル)と第2農園(北加賀屋5=500平方メートル以上)があり、第2農園にはキッチン付きサロンスペースも併設する。

みんなのうえん

みんなのうえんに隣接する「旧千鳥文化住宅」(北加賀屋5)を再生し、コミュニティスペースとして活用しようというプロジェクトも2016年の開設を目指して進行している。

2012年に開設された「MASK(MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)」(北加賀屋5)は、鋼材加工工場、倉庫跡の空間を再生し、現代美術作家の大型作品を無償で保管、展示しているスペースだ。2014年に初めて一般公開された際には、国際的に活躍する5人の現代美術作家の大型作品が公開され大きな反響を生んだ。

北加賀屋に大型アート作品の収蔵庫「MASK」-「ラッキードラゴン」復活も(大阪ベイ経済新聞)

■「KCV構想」は第2段階へ

「北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ(KCV)構想」が提唱された2009年からこれまでの6年間で、北加賀屋にはアート関係者が集まるようになってきた。2009年からスタートした地元住民を巻き込んだアートイベント「すみのえアートビート」も定着し、以前からの住民もアートの街としての北加賀屋を認識しているという。

そして来年からは、同構想は第2段階へと進む。これまでアーティストに向けた取り組みが主体だったが、今後はアーティストだけでなく、感度の高い一般市民を取り込んだ取り組みが始まる。

加賀屋小学校に隣接する、企業の社宅だった物件2棟、18室のうち8室を8組のアーティストにより改装し、30代前後をメーンターゲットに住居用物件として賃貸する。アーティストではなく、一般の住民を誘致する取り組みとして、来年2月末のオープンを目指している。

アートな街「北加賀屋」は、同エリアの半分の土地を自社で保有している千島土地株式会社の存在なくしては実現しえなかった。同社は衰退した造船業に代わり、アートで北加賀屋を復活させようと長期的な視点で取り組みを行っている。今のところこの活動により北加賀屋エリアのマンションなどの賃料が上がるといったことにはつながっていないが、空き室をアーティストに賃貸したり、地元住民の機運も近まるなど、確実に変化を見せている。

北加賀屋エリア内には同社主導で開設したアート関連スポットだけでなく、感度の高い人をターゲットにしたカフェなどもオープンし始めた。インバウンド特需により外国人観光客が「AIR大阪」に長期宿泊するなど外部との交流も増えている。今後は、イベント開催時だけでなく、常時何かが行われている街になればと願っている。

※北加賀屋エリアのマップについては、千島土地株式会社が発行するパンフレットのPDFでご覧いただけます。

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